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ハーモニックバランサーの原理と効果

先回の記事でクランクシャフトのダメージに苦悩しつつ「今思えばハーモニックバランサープーリーをもっと早く導入しておけば良かったなあ」と書いたところ、

「プーリーの慣性モーメントはフライホイールの慣性モーメントに比べれば非常に小さく、クランクシャフトの振動を吸収する効果は期待できないのではないか。せいぜいVベルト系の振動を吸収する程度では?」

「ハーモニックバランサーと純正ダンパープーリーの違いは何ですか?」

という質問をコメント欄に頂きました。

それを機会にちょっとマジメに考察してみたのですが、単に返答だけで終えるのは勿体ないような気がしたので、Do Tradingのスクイさんから頂いた情報も加えて記事にまとめてみました。

R0017981.jpg

赤ミニで使ってきた1300cc用純正のダンパープーリーです。

クランクシャフトが固定される内筒とVベルトが掛かる溝が掘られた外筒、そしてその間を埋めるように充填されたゴム層とで構成されています。そしてゴムが硬化してボロボロになってました。

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取り付けられる位置はここですね。クランクシャフトの前端、つまりエンジンのフロント側で、Vベルトを介してウォーターポンプとオルタネータを駆動しています。

DSCN2561.jpg

エンジンの前方から見るとこんな感じです。

右側に見えているのがプーリーですが、確かに左側のクラッチハウジング内に収まる巨大なフライホイールと比べると申し訳程度の大きさに見えますw

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フライホイール、クランクシャフト、そしてプーリーの位置関係はこんな感じです。右側のごちゃっとした分かりにくい図は某特許から引用してきたダンパープーリーの構成図です。内筒と外筒の間にゴムとビスカスダンパーが封入された構造になってます。

この、クランクシャフトを挟んで片側に巨大なフライホイールがあって、もう片側に小さめのプーリーがあるという配置自体にも実は意味があるのですよ。以下で順番に役割を説明します。

フライホイールの機能はマスダンパーです。つまりクランクシャフト軸に大質量の慣性モーメントを与えることによって、等間隔とは言え断続的な爆発力を連続した安定な回転として取り出すためにあります。その一方でクランクシャフトに対して剛結されているだけですのでクランクシャフトに発生した捻れのエネルギーを吸収する機能はありません。

クランクシャフトが捻れる際には、フライホイールが大きな慣性を持つためフライホイール側を固定端としたような捻れになります。各気筒で発生する捻れが重なって複雑な捻れ変位として現れるのが固定端の反対側で開放端となっているフロント側で、そこに取り付けられているダンパープーリーはその捻れ変位の運動エネルギーを減衰させる役割を担ってます。

具体的には、慣性により一定速度で回転しようとする外筒に対してクランクシャフト側に固定された内筒が振動するわけですが、内筒が外筒よりも先に進もうとしたらゴムを介して引っ張り戻し、逆に遅れるようならばゴムを介して引きずり回すという、変化に対し常に逆の方向に力を発生させることで振動に対して抵抗してくれてます。また、ゴムが変形する際に運動エネルギーを熱エネルギーに変換して放熱することでクランクシャフトの捻れの運動エネルギーを強制的に発散させ、効果的に減衰してくれています。ラジエターが放熱して冷却水を冷やすように、ゴムが放熱してクランクシャフトの捻れの運動エネルギーを奪ってくれているわけです。

20160923_01.jpg

イメージとしてはこんな感じです。横軸が時間で縦軸がクランクシャフトの捻れの角度です。

燃焼の力がピストンとコンロッドを介してクランクシャフトに伝わるとクランクシャフトは回転しつつ捻れるわけですが、ダンパープーリーが無い場合は一旦大きく捻れた後は原点(捻れゼロの角度)を挟んでビヨンビヨンと振動し、時間をかけて少しずつ減衰していきます。

一方、ダンパープーリーがある場合は捻れの運動エネルギーが吸収されるために振動が短時間で収束します(ダンパープーリーの性能次第ですがw)。性能の良いダンパーを装着したサスペンションと同じ状態ですねw

「プーリー内部の薄っぺらいゴム如きでクランクの捻れ振動を本当に吸収減衰できるのか?」という疑問が最後に残ると思いますが、実はこれが吸収できるんですよw(こちら)。
クランクシャフトとダンパープーリーをモデル化して運動方程式として解いた解析解です。細かいところは難しいので放置するとしてw、結論は、

「適切な重さと大きさのプーリーを使えばクランクシャフトのねじれ振動は抑えることが出来る」。

さらには

「適切な粘弾性のゴムを用いた減衰機構付きのダンパープーリーを使えば更に広い回転数範囲で更に効果的に捻れ振動を減衰できる」

となっています。

歴史を紐解くと、プーリーの基礎となる同調質量ダンパーの機構はP.Wattsによって1883年に考案され、さらに減衰機構を加えたダンパープーリーの基礎理論はJ. OrmondroydとJacob Pieter Den Hartogによって1928年に考案されました。
ミニが誕生する30年前のことですし、ちょうど自動車が爆発的に発達した時期と重なりますので、自動車の進歩がこの技術の恩恵を受けたのは間違いない、というくらい確実で原始的な機構だったりします。つまりダンパープーリーってのは決してオカルトパーツじゃないんですよw

スクイさんから伺ったお話によれば、ミニの歴史の中ではクーパーS用のダンパープーリーの効果が特に有名とのことで、耐久性の高さで折り紙付きだったMk1後期からMk2までのクーパーSのEN40B鍛造クランクシャフトもこのダンパープーリーの恩恵を受けていたようです。
これが1275GT用として簡易型になり、後期Aプラス用はそこから更に簡略化されたそうで、新品時はそれなりの効果があるもののゴムの劣化が激しく、短期間で硬化して機能を失うばかりかバキバキに割れてしまうことも多かったようです。

先程ご紹介した論文の結論でもあるのですが、ダンパー機能付きのプーリーの場合は広い回転数範囲で効果的に捻り振動を吸収してくれるのですが、逆にダンパープーリー機能が無いリジットプーリーの場合は適正な条件範囲が狭く、その範囲を外せば逆効果だったりします。
・・・それを踏まえて我が家の赤ミニのクランクシャフトに生じたダメージを考えてみると、硬化したゴムのプーリー、つまりリジット化して過剰に重いだけのプーリーを使い続けてしまったのがEN40Bのクランクシャフトにすらダメージを与えてしまった原因だったのかもしれません。かなり後悔してます。

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クランクシャフトの捻れがシャフト自体の破断にまで至ってしまう経緯と、ダンパープーリーの役割についてまとめてみました。

シリンダーで爆発が生じるとクランクシャフトに爆発力が伝わりクランクシャフトが回りつつ捻れるわけですが、一発の捻れでクランクシャフトが折れるわけではありません。特定の回転数で爆発による捻れの変位に次の爆発が重なるような「共振」が生じた場合に捻れが増幅され、クランクシャフトの弾性変形域を超えてしまった時に破断に至ります。

それを模式的に説明したのが上の図です。左はダンパープーリー無しで同位相で3連続で捻れが入った状態です。青線が一発目、一周期遅れてオレンジの線が2発目、そして更に一周期遅れて紫の線が3発目ですが、各周期で波の山が重なっているのが見て取れると思います。
一方で右の図はダンパー機能付きプーリーの場合ですが、それぞれの捻れが短時間で減衰するため波が重なりません。

20160923_03.jpg

この同位相での波の重なりが「共振」です。

波が重なると足し合わされて増幅されるんですが、その結果を示したのが上の図の赤線です。一発目、2発目、3発目・・・と捻れが重なってどんどん増幅され、いつしか強度限界を越えて破断に至る、と。これがクランクシャフトが捻れ振動で折れるメカニズムです。
逆に言えば、捻れ振動を増幅する前に毎回確実に減衰できるならば破断には至らないわけですね。この役割を担っているのがダンパープーリーというわけです。

ちなみにクランクシャフトが捻れやすい条件としては、直列6気筒などのようにクランクシャフト自体が長い場合、3気筒エンジンのように爆発間隔が長い場合、そして4気筒3ベアリングのように支持部が少ない場合があります。ミニ涙目ですねw

R0018041.jpg

ここからは純正ダンパープーリーとハーモニックバランサープーリーとの違いについて、スクイさんから頂いた情報も交えて考察してみようと思います。

左が1300cc用純正のダンパープーリー。右がエイボンバー社製のハーモニックバランサープーリーです。

R0018040.jpg

裏から見るとこんな感じです。

純正のダンパープーリーもハーモニックバランサーも、どちらもクランクシャフトが固定される内筒とVベルトが掛かる溝が掘られた外筒、そしてその間を埋めるように充填されたゴム層とで構成されています。純正の方はゴムが露出していますがハーモニックバランサーの方は見えないようになってますね。

ダンパープーリーの原理が発明されたのが1928年、ミニの純正プーリーが作られたのが1950年代末、エイボンバー社でハーモニックバランサーが作られたのがおそらく1980年代であることを考えると、両社とも同じ理論を使って設計的には似たようなことをやっているはずですので構造的には大きな差は無いだろうと想像できます。1960年代ならば能力はともかく電算機もあったでしょうしw

そんなわけで、純正のダンパープーリーとハーモニックバランサーの違いは構造設計ではなく材料にあるのではないかと想像しておりました。そしてスクイさんから得た情報によれば使用しているゴムの材質とプーリーとの接合方法に違いがあるとのことでした。半分ビンゴでしたねw

まずは材質の比較です。

純正のダンパープーリーに使われているのはNBRとのことです。ニトリル−ブタジエン共重合ゴムと呼ばれるもので、天然ゴムに比べると耐油性、耐摩耗性、引き裂き強度に優れますが、自動車のエンジンルームのような暑い環境で、しかも振動を熱に変えるような仕事をさせるには耐久性に問題があります。純正ダンパープーリーの寿命が短いのはこれが原因でしょう。

一方、ハーモニックバランサープーリーが作られた1980年代は、合成ゴムの中でも粘弾性の設計自由度が高く耐久性が大きく改善したEPDM(エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム)が使えるようになっていたはずなので、それを使っているのではないかと想像しております(材質までは未確認です)。

スクイさんの情報によれば、元々は音響用に開発された制震ゴムを自動車用のダンパープーリーに使うべく研究開発が始まり、中〜高周波振動の吸収に大きな効果が確認され、アメリカなどで主流だった大排気量V6エンジンへ応用した際の効果がユーザーの反響を呼び、量産と継続生産の後押しを得て横展開されてミニ用のプーリーも作られることになった、とのことです。

もう一つの違いである接合方法ですが、

純正ダンパープーリーは外筒と内筒の間にゴムを充填する際にゴムを固定するために接着剤を使っているのですが、ハーモニックバランサープーリーの場合は外筒と内筒のどちらにも接着剤は使用していないそうです。おそらく加硫接合で金属表面とゴムとを硬化成形と同時に接合しているのでしょう。接着剤層という材料間の界面は伝達障壁になりますので、それが無いというのはクランクシャフトの振動をスチールの剛体部分からゴム部分へ伝達する際にメリットになります。

まとめると「振動の伝達効率に優れ、広い周波数範囲で減衰効率に優れ、しかも寿命が長い」、これが純正ダンパープーリーに対するハーモニックバランサープーリーのメリットでしょう。デメリットは価格が高いということでしょうかw

その他にも接合面を広く取りゴム部分の体積を大きく確保することで回転方向だけでなくスラスト方向の振動吸収性にも優れるというメリットもあるそうです。スラスト方向の振動か・・・目頭が熱くなりますねw

古い確実な技術に新しい材料を組み合わせることでより優れた効果をより長期間発揮できるようになった、と・・・ロマンですよねw
それにしてももう少し早い時期に真剣に調べて使っていれば良かったなあと・・・後悔先に立たず、です。自己嫌悪ですよw



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みくたさんの不思議?

解決の方向性が見えてきた様で良かったですね♪
それとも・・・まだなのか?

3年前の秋に成田モーターランドでハーモニックバランサープーリーの話をしたら、
『シラ~~~・・・』
っとみくたさんがしているので
『・・・興味が無いんだ~』
と、その時は思いました。

スクイさんが言っている様に体感できると思います。
10月のSBoMでは復活をした赤ミニとみくたさんの憂いから解放された笑顔を見れる事を楽しみにしています!♪

No title

ジョブさん、どうもです。

まだです。まだなんですよ〜涙

興味が無かったわけではなくて余裕が無かっただけではないかとw
全方位なんですが常に全てに感度全開ではないんですよ、その時々で興味の方向があるみたいですw

10月間に合いますように!

あ、メールありがとうございます!
今年の女の子も可愛いですね!w

ふむふむw

いつもながら判り易く、かつ深い考察レポートありがとうございますm(_ _)m
プーリーにもこんなに深い役割があったとは・・思いませんでした。。
ハム号にも真っ先に導入する予定でしたが。。
予算的に余裕がなく・・真っ先に削除されてそのままです(汗。
できるだけ早く装着してあげたいと思います。
知ってしまったら、安心して回せないですもんね(。。)_

10月間に合いますように!祈ってます!!

みくたさんの不思議?2

今回のネタとは全く関係はありませんがw
いつでも条件反射的にみくたさんが喰いつくネタ?
みくたさんの瞬殺状態?w

めぐみさん、りなちゃん、マイカルさんに写真撮影を御願いしてからみくたさんを呼びにいくと、
みくたさんはどんな時でも目の色を変えて脱兎の如く走り出すではないですか~w
ん?獲物を追う野獣の如くが正解か?
(そんなみくたさんは好きですけどねw)

皆さんとみくたさんのツーショットを撮った後に
『♡やったね~~~!♡』ってはしゃいでる姿は自分も含めて、
『何なんだこの◯鹿丸出しのオヤジ共はー!』
と、時々思いますよw



No title

ナナハムさん、どうもです。

全ての部品には開発されてきた歴史と意味があるんですよね。ちゃんと知ってないと判断を誤るなあと、今回の件で僕自身も思いました。
1000と比べると1300の方がトルクが大きい分負荷も大きいのですが、それ以上にクランクジャーナルも太いですからね。どう考えても1000が一番不利だな、とw

クランクシャフトは次善の策の物をもう手に入れているのですが、メタルが間に合ってないです。祈って下さい!w

No title

ジョブさん、どうもです。

いやいや僕の不思議シリーズはいいですからw

好きな人の隣をゲットするとか一緒に写真に収まるとか、基本じゃないですか、ねえw

適用について

こんにちは。
教えてください。
この部品は850ccのエンジンにもつかえるのでしょうか?

No title

とらさん、こんにちは。

ハーモニックバランサーにはスモールボア用とビックボア用があります。クランクシャフトのねじれは概ねトルクに依存するのですが、うちの赤ミニは1300並みのトルクを出してましたのでビッグボア用を使ってました。ブログの写真は全てビッグボア用です。

850ならばスモールボア用を選べば問題ないかと思います。
マッチングが気になるならばDoTradingのスクイさんに質問するのが一番ですよ、きっと懇切丁寧に教えてくれますw

気になる点としては、850は元々相当に滑らかなエンジンかと思いますので、劇的な効果を体感できるかは分からないです。それでもゴムが硬化した当時ものを無理して選ぶよりはよっぽどリーズナブルかと思いますよ。
プロフィール

みくた

Author:みくた
運動神経のなさを経験値でカバーしようと企むAround 40です。
これまでランエボでのサーキット走行にハマり、最近はClassic MINIに惚れ込んでます。Mini1000、1300キャブクーパーとおんぼろミニを乗り継いで、Austin Mini Mk1 に辿り着きました。レストア、トラブル対策とのんびりドライブを楽しんでます。
よろしくお願いします。

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